皆さんはインタビュー、ワークショップ、オンラインサーベイ、プロトタイピングなどの各種リサーチや、分析、アイディエーションなどのプロセスを経て作ったアイデアを周囲とどのように共有していますか?
チームメンバー同士の意見交換、クライアントやユーザーに向けた説明など、アイデアを「コンセプト」の形で表現し、伝達する場面は数多くあるのではないでしょうか。プロダクトデザインにおいて重要な指針・軸となる「コンセプト」ですが、頭で思い描いているアイデアをコンセプトとしてアウトプットしてみると実はまだ曖昧な点が残っていたり、思うように周囲に理解してもらえなかったりすることもあるかもしれません。コンセプトを表現することは、コンセプト作成と同様重要だと言えます。
今回はそんなコンセプト表現に役立つフレームワークを11個ご紹介します。下記の3つに分類したので、プロジェクトのフェーズに応じて選んで活用してみてください。
1.ブレインストーミングからアイデアをまとめるときに使えるフレームワーク
2.プロダクトの価値検証を進めるときに使えるフレームワーク
3.ビジネスモデルの検討をするときに使えるフレームワーク
また、ご紹介する11個のフレームワークを実際に活用できるよう、miro上で編集あるいはPDFダウンロードができるテンプレートをご用意しました。本記事の中で掲載している記入例を元に、より使いやすく効果的にコンセプト表現ができるようにANKR DESIGNが作成したテンプレート・サンプルが含まれています。そちらも併せてご活用ください。
ユーザー・欲求・課題・製品特徴を一言に言語化するフレームワーク。クックパッド株式会社や株式会社Gunosyが仮説検証に使っていることでも知られています。ユーザー像、そのユーザーが持つ欲求と課題、製品の特徴を記入し、ユーザーにとっての一連の流れを言語化することで、ニーズに対応した機能をもつプロダクトの作成を補助します。ユーザーが抱える欲求や課題を軸にコンセプトを端的に表現できるため、ブレインストーミングやアイデア検討段階に活用しやすいフレームワークです。
以下は「クックパッド」を例にした価値仮説です。
15–30秒で製品やサービスの企画の概要を説明するためのフレームワーク。
競争が激しいシリコンバレーの多忙な投資家を惹きつけるため、起業家がエレベーターに乗っている間に投資家に向けて端的にビジネスプランをプレゼンする、というストーリーが由来となっています。自己アピールやセールスにも活用されるエレベーターピッチですが、アジャイル開発においてよく利用されるインセプションデッキ(プロジェクトの全体像を伝えるドキュメント)を構成する一要素として製品コンセプトを表現するためのエレベーターピッチが含まれています。
価値仮説シートと同様にユーザーの欲求や課題を起点にしながらも、既存プロダクトと差別化した特徴を記入するため、より優位性を考慮したコンセプトを作ることができます。
具体例として、フリマサービス「メルカリ」のコンセプトをエレベーターピッチにすると以下のようになります。
このようにエレベーターピッチを作成することで、ターゲットや競合との差別化ポイント、プロダクトの価値をシンプルかつ明確に表現することができます。エレベーターピッチは一度作って完成ではなく、プロジェクトのフェーズに応じて繰り返しブラッシュアップしていくと良いでしょう。
ユーザーの体験コンセプト(提供価値)をツリー型の図式で明確にするフレームワークで、千葉工業大学教授・安藤昌也氏が考案した手法です。複数のアイデアを並行して検討するときに使うもので、ブレインストーミングで出てきた複数のアイデアを要素分解することにより、それらにまたがる本質的な価値は何かを可視化することができます。
フレームワークは下から埋めていきます。検討段階のアイデアを「具体的な提案」に記入し、順番に「キーとなる満足要因(KSF)」、「どうやって実現するのか」、「タッチポイントでの体験」、「本質的体験価値(UXコンセプト)」へと展開していきます。
求人検索アプリを例にコンセプトツリーを埋めると、以下のようになります。
コンセプトツリーを使ってアイデアを検証していく前段階として、「コンセプトアイデアシート」を用いて軸とする体験価値のアイデア出しを行っても良いでしょう。「コンセプトアイデアシート」とは、インタビューなどで明らかになったインサイトをもとにどんな体験価値を提供できるサービスにするかを示すフレームワークです。技術や既存機能に囚われず、インサイトに基づいたアイデア出しをするのに役立ちます。
以下は求人検索アプリを例にしたコンセプトアイディアシートです。
Feature (特徴)、Advantage(優位性)、Benefit(顧客便益)、Evidence(証拠)の頭文字をとったもので、商品やサービスの価値や訴求ポイントを分析・表現するフレームワークです。Evidenceを抜かしてFAB分析とすることもあります。
FABE分析では下記項目をそれぞれ短文で埋めていきます。
①Feature (特徴):本提案の特徴、機能、スペック
②Advantage (優位性):優位性
③Benefit (顧客便益):顧客の得られるメリット
④Evidence(証拠):提案を裏付けるデータ、実績等
ユニクロの「ヒートテックシャツ」を例にFABE分析をすると、以下のようになります。
FABE分析はシンプルで分かりやすいので、プロダクトデザインの経験が浅いチームメンバーやクライアントとのミーティングでも活用できそうです。
Need、Approach、Benefits per costs、Competitionの頭文字を取ったもので、価値提案の基本となる4項目をカバーしたフレームワークです。スタンフォード研究所(SRI)にて、イノベーション創出方法として開発されました。
NABC分析は、下記の4項目から成り立っています。
①Need(顧客ニーズ):重要な顧客と市場ニーズとはどんなものか?
②Approach (技術やサービスなどの解決方法):そのニーズに応えるための独自のアプローチとは?
③Benefits per costs(顧客価値とビジネス価値の費用対効果): どのような価値を提供するのか?そのアプローチの費用対効果はどうなのか?
④Competition(競争相手) : 費用対効果は、競合や代替品と比較して、どのくらい優れているか?
ストリーミング音楽配信サービス「Spotify」を例に当てはめてみます。
FABE分析と同様にシンプルなフレームワークですが、ニーズはあるのか?競合とどう差別化できるか?といった、よりビジネスとしての現実的な観点からコンセプトを検討することができます。
千葉工業大学教授の安藤昌也氏が考案したUXDコンセプトシートは、実現すべき体験価値を目標に定め、その体験価値を提供するためのアイデアを実現できるかどうかを検討しながら表現する手法です。ペルソナ(属性層)と目標とするユーザーの価値(価値層)を定め、ユーザーの行動や体験の経時的な変化(行為層)を記入していきます。初めにプロダクトによって提供できる体験価値やユーザーの心の声を明確に示すことで、機能ありきではなくユーザーに寄り添ったコンセプトにブラッシュアップできるのがUXDコンセプトならではの利点です。
UXDコンセプトシートは、以下の手順で記入していきます。
①「実現すべき体験価値・本質的ニーズ」欄にアイデアが目標とする体験価値を書く
②「ペルソナ」欄にペルソナの情報を転記する
③「UXDコンセプト:キーフレーズ」欄にアイデアを端的に表すキーフレーズを書く
④「使い続けた時の心の声」欄に提案するアイデアを使ったペルソナ が思う心の声を書く
⑤「UXDコンセプト:バリューシナリオ」欄に「どんなときにどんなふうに使うとどんな嬉しい体験があるか」を記述する
⑥「UXDコンセプト:シーン・利用文脈」欄に想定される利用シーンを複数挙げる
⑦「時間軸のユーザーの心の声:使用前の期待・不安の声」欄にアイデアの体験をする前の声を書く
⑧「時間軸のユーザーの心の声:使用中の声」欄に製品・サービスの機能的面含めてどんな嬉しいことがあるか書く
⑨「時間軸のユーザーの心の声:使用後の感想」欄にあるシーンでの使用後の感想を書く
以下は秘書が学ぶ自分を励ましてくれるスマホアプリを例にしたUXDコンセプトシートです。
プロダクトと顧客の状況やニーズを可視化するためのフレームワークで、Strategyzer創設者アレックス・オスターワルダー(Alex Osterwalder)が提唱したものです。一枚の紙の上に顧客への提供価値と顧客セグメントの2つを描き、両者間の関係性を表します。
バリュープロポジションキャンバスは以下のような順番で埋めていきます。
「顧客セグメント」
①Customer Job(s) …顧客が解決したい課題(欲求)
②Gains …顧客の利得(プラスに感じる)
③Pains …顧客の悩み(マイナスに感じる)
「顧客への提供価値」
①Products & Services …製品やサービス
②Gain Creators …顧客の利得をもたらすもの
③Pain Relievers …顧客の悩みを取り除くもの(不便・不満を解消してくれる)
映画サブスクリプションサービスを例にバリュープロポジションキャンバスを作成すると、以下のようになります。
既存プロダクトとの差別化はもちろん重要ですが、それがユーザーのニーズと乖離したものになってしまうのは本末転倒です。バリュープロポジションキャンバスは、ユーザーが感じられる価値を実現しつつ独自性のあるコンセプトを確立するのに役立つでしょう。
兵庫県立大学経営学部教授の川上昌直氏が考案した9セルフレームワークは、3×3の9つのセルを埋めていくことで、そのプロダクトにどのような価値・強みがあるかを表現することができます。検討中の新規サービスをアイデアから実行に移すまでの流れとして整合させ、ビジネスモデルを論理的に評価できるようにするためのフレームワークです。縦軸にはビジネスの構成要素(顧客価値、利益、プロセス)、横軸にはビジネスのコンセプト(誰に、何を、どのように)がとられています。
9つのセルに以下の順番で埋めていくことで、プロダクトの有効性、不足点、実現性などを論理的に評価することができます。
①顧客は誰か
②何を提供するのか
③どう実現するのか
④誰から儲けるか
⑤何で儲けるか
⑥どう儲けるか
⑦どんな手順でビジネスを展開するか
⑧強みを活かす部分はどこか
⑨誰と組むのか
「Amazon」を例に9セルフレームワークを埋めると、以下のようになります。
ビジネスモデルを9つの要素に分けて考えるフレームワークです。シリコンバレーの起業家アッシュ・マウリャ(Ash Maurya)氏がIT系スタートアップの新サービス開発向けに設計したものですが、プロダクトのコンセプトを整理し説明するのにも活用できます。9つの観点から詳細にコンセプトを決定することで周囲からのフィードバックが得やすくなり、また、要検証な仮説も洗い出すことができます。
リーンキャンバスは以下の順番で埋めていきます。
①顧客セグメント
②課題
③独自の価値提案
④ソリューション
⑤チャネル(どのようなチャネルで、どのようなタッチポイントがあるのか)
⑥収益の流れ(サービスの価格、マネタイズ)
⑦コスト構造(サービスを提供するのに必要なコスト)
⑧主要目標(KPI/KGI、AARRRなど)
⑨圧倒的な優位性(既存顧客や顧客情報、専門家の支持、チームメンバー、サービスの信頼性、人脈やコミュニティ、SEOランキングなど)
フィギュア・プラモデルのコレクター向けフリマアプリを例にリーンキャンバスを埋めると、以下のようになります。
コンセプト段階でわからない部分、検証できない部分を空欄にしておくことは問題ありません。まずはシンプルに考えて短時間で書き上げ、後から見直して更新したり加筆したりしていきましょう。
Strategyzer創設者アレックス・オスターワルダー(Alex Osterwalder)とローザンヌ大学教授イヴ・ピニュール(Yves Pigneur)によって考案されました。
9つの項目からなり、リーンキャンバスと似ていますが、リーンキャンバスが課題解決にフォーカスしているのに対し、ビジネスモデルキャンバスは事業モデルの分析ができるフレームワークとなっています。顧客に提供したい価値とそれを実現するためのビジネス構造を視覚化することで、異なる職種間でも共通認識を持って議論を進めることができます。
ビジネスモデルキャンバスは以下の順番で埋めていきます。
①顧客セグメント
②価値提案
③チャネル(どのようなチャネルで、どのようなタッチポイントがあるのか)
④顧客との関係(対面、電話、オンラインなど顧客とどんな関係を構築するのか)
⑤収益の流れ(サービスの価格、マネタイズ)
⑥リソース
⑦主要活動(製造、サプライチェーンマネジメント、市場調査、人材採用などビジネスモデル実行のために重要な行動)
⑧パートナー(ビジネスモデルを構築するサプライヤーとパートナーのネットワーク)
⑨コスト構造(サービスを提供するのに必要なコスト)
以下はカーシェアリング「タイムズカープラス」を例にしたビジネスモデルキャンバスです。
以上、プロダクトデザインにおけるコンセプトの表現方法11個をご紹介しました。
それぞれ作成時間やコンセプト自体の粒度も異なるので、プロジェクトの進捗や検討段階、コンセプト表現の目的、チームメンバーやクライアントの知識経験などに応じて合うものを選び、活用してみてください。