こんにちは。アンカーデザインです。みなさんはデザインリサーチやUXリサーチという言葉をご存知でしょうか。
文脈によって意味が異なる場合もありますが、プロダクトやサービス、あるいはユーザーエクリペリエンスについてデザインしたり検討する際に実施する調査の総称として捉えられています。プロダクトやサービスそのものや、そこに関わる多種多様な人々、あるいはその周辺環境について理解を深めることによって、既存プロダクトの課題や改善可能性はどこにあるのかを明らかにしたり、あるいは、新規プロダクトとして何を作るべきか、誰に何をどのような方法で提供すれば良いのかを明らかにしていきます。アンカーデザインにおいても日々、クライアント様と一緒にリサーチに取り組んでおり、リサーチを通して真の課題がどこにあるのかを見出し、あるべき方向性や次のアクションを見出すために活用しています。
さて、このように捉えられているUXリサーチですが、リサーチを行う際によく利用されている手法の1つとしてユーザビリティ評価が挙げられます。これは、すでに作成されている既存プロダクトや、新たに作成された新規プロダクトのプロトタイプなどを、プロダクトが想定するユーザーの方に使っていただき、そのプロダクト(あるいはプロトタイプ)に含まれる問題点を抽出する方法です。
今回の記事では、ユーザビリティ調査の具体的な手順について解説していきたいと思います。手順は大きく「ユーザビリティテスト当日までの準備」「ユーザビリティテスト当日」「ユーザビリティテスト実施後」の3つに分けて、合計17のポイントから説明を行いたいと思います。
まずは、ユーザビリティ評価プロジェクトのゴールについて考えるところから始めましょう。あなたはなんのためにユーザビリティ評価を実施しようとしているのでしょうか。代表的なものとしては下記のようなものが例として挙げられます。
あるいはもっと具体的にこのような課題からスタートする場合もあるかもしれません。
目的を定めずにユーザビリティ調査を実施すると、どのような方に調査に協力いただけば良いのか検討することもできませんし、調査内容のうちどこに注目して、どのように分析すればいいかが曖昧になってしまうため、調査が有意義なものとならない恐れがあります。
目的がある程度定まった後に、次はユーザビリティ評価に利用できるリソース(期間や予算など)はどの程度なのかを確認しましょう。
例えば「期間」について検討してみます。様々な事情から新バージョンのリリース日程が決まっている場合は、開発するプロダクトの仕様が特定の日までにある程度決まっている必要があるでしょう。この場合、その決められた期日までに現行プロダクトのUIを評価し、改善点を抽出し、開発工数の見積もりや開発サイドとの調整等が必要になります。こうした様々な制約を前提にスケジュールを組むことが必要です。
「予算」についても検討する必要があります。使える予算が潤沢であれば様々なオプションが利用できますが、実際にはゼロか、そうでなかったとしてもそこまで多くの予算を使用することがほとんどかと思います。予算に限りがある場合は、自分のチームや社内でやる方法を探ったり、場合によっては社内有志を募るなどしてリサーチを行うことも考えても良いかもしれません。幸運にもプロジェクトのための予算が確保されている場合、その中でどのような配分を行うのかを検討します。もちろん、弊社のようなUXリサーチやデザインリサーチを得意とする外部のデザイン会社に相談するのも良い方法だと思います。
ユーザビリティ評価を行う担当者の「時間」はどの程度確保できるでしょうか。残念なことにユーザビリティ評価専任のスタッフを置いている会社は殆どありません。それどころか、ユーザビリティ評価のための時間を業務時間内に確保できている会社すら少ないでしょう。デザイナーが本業の合間を縫ってユーザビリティ評価の時間を確保しているケースも実際には珍しくありません。上記を把握した上で、ユーザビリティ調査全体にかかる時間の見積もりと関係者に関わってもらう時間の配分を検討しましょう。
また、ある程度以上の規模の会社ではステークホルダーが誰なのか、どのような社内ルールがあるか、関連する法規制としてどのようなものがあるか、その他様々な前提条件を確認する必要もあるでしょう。例えば、せっかく問題点を抽出して改善提案を作っても、様々な理由からそれをプロダクトに反映させることができないのであれば、その作業はなんのためだったのか?ということになりかねません。
これらのポイントを抑えた上で、プロジェクトをスタートさせましょう。
2. 評価タスク設計
プロジェクトの前提条件を確認したら次に「タスク」について考えましょう。ユーザビリティという言葉からは「使いやすさ」や「使い勝手」と言ったものをイメージされることが多いので、いきなり「タスク」という言葉を言われると戸惑う場合もあるかもしれません。しかし、「使いやすさ」と「タスク」は切り離す事ができ無い重要な概念です。
ひとつのプロダクトは複数のタスクのために使用されることが多々あります。例えば、メルカリなどのフリマアプリをイメージしてください。ユーザーはアプリを使って商品を出品したり購入したりすることができますが、出品する時と購入する時、つまりアプリをどのように使うか?によってユーザーが使用する画面や機能は異なります。
もちろんプロダクト全体でユーザビリティを高める事が重要であるのは間違いありません。しかし、多くのケースではプロダクトが使用されるシチュエーションによって使われる機能やUIが異なるため、まずはタスクに分割して(あるいはいくつかのタスクに焦点をあてて)それぞれの評価を行います。
タスクの例としては例えば、以下のようなものが挙げられるでしょう。
ユーザビリティ評価には様々な手法があります。代表的なものとしてはユーザビリティテスト、ヒューリスティック評価が挙げられるでしょう。費用をかけずに…という事であれば、ヒューリスティックで問題点を抽出する場合もありますし、ある程度のコストをかける場合はユーザビリティテストをしたり、視線計測装置などを使う場合もあります。状況によっては実際に運用中のアプリが蓄積したログを分析し問題点を抽出する場合もありますが、本記事では弊社で実施させていただくことの多い手法、つまりユーザーにプロダクトやサービスを実際に触ってもらい、問題点を抽出するユーザビリティテストについてご紹介します。なお、ユーザビリティテストのことをユーザーテストと称することもありますが、評価対象はあくまでもプロダクトやサービスであり、ユーザーをテストするわけではないことに注意する必要があります。
ユーザビリティテスト実施のためにはまず、テストに協力してくださる人々を探す必要があります。なお、テストに協力してくださる方のことは「協力者」「参加者」「ユーザー」「インタビュイー」など、文化背景などの違いによって異なる呼び方をする場合がありますが、大きな違いはありません。なお、本記事では「協力者」とします。
評価に参加してくださる協力者を集めるためにリクルーティングを行います。ユーザーリクルーティングエージェントを使う場合もありますし、最近であればtorima.inやuniiリサーチなどを使用する場合もあるかと思います。
この際に、適切な属性を持ったユーザーを集めることが非常に重要です。例えば農作業を支援するアプリであるにも関わらず、大都市に住んでいて、ここ数年、土に触ったことも無い方(もちろん、彼らが潜在的なユーザーになる可能性は否めませんが)にアプリを触ってもらっても適切な評価は難しいでしょう。
他にも様々な要素がユーザーテストの結果を左右します。例えば、普段使用しているスマートフォンはiOSなのか、Androidなのか。日常的に使用しているパソコンはMacなのかWindowsなのか。スマートフォンやパソコンの使用頻度はどの程度で、日常的にどのようなアプリを使用しているか、競合のアプリを使用しているかなど影響のありそうな要素について事前に確認する必要があるでしょう。
参加していただく方が決まったら、ユーザーテストを実施する日時と場所(オンラインで実施する場合は参加方法)を伝えましょう。善意でご協力いただく場合、やむを得ない事情などで当日までにキャンセルが出る可能性もあり得ます。そのため、最低限必要な人数+αの方でテストを実施する計画を立てる必要があるかもしれません。
従来はユーザビリティ評価をオフラインで実施することが一般的でしたが、コロナ禍により昨今ではオンラインでのユーザビリティ評価も多く実施されるようになってきています。そこで下記では、オンライン/オフラインそれぞれのやり方について記載しています。
オフラインでユーザビリティテストを実施するには場所が必要となります。社内あるいは社外の会議室を手配しておきましょう。後述しますが、別室でテストの様子をモニタリングしたいと考えている場合は、そのための部屋も用意しておく必要があります。
また、ユーザビリティテスト実施のための備品も準備する必要があります。これには被験者から調査に関する同意を取るための同意書や謝礼などが含まれます。
また、被験者に操作してもらうスマホやPCのほか、その様子を撮影するためのビデオカメラや三脚、ICレコーダーなどの機材も必要になります。スマホで操作している様子を明瞭に録画したい場合は書画カメラなどがあると便利です。書画カメラとはアームでカメラを固定し、上から撮影するためのものです。
オンラインでユーザビリティテストを実施する場合にはzoomやteamsなど、オンライン会議用のツールが必要になります。企業によってはuserzoomなど専用のツールを使う場合もありますが、最低限相手とスムーズにビデオ会議ができるものであれば、どのようなツールを使っても実施可能です。
オンラインで実施する場合は、相手のインターネット回線を事前に確認しておくと安心です。調査協力者によってはモバイル回線のみでインターネットを利用しており、残りギガの関係からビデオ会議が難しい場合もあるでしょう。また、オンラインでの調査は相手がどこにいても調査に参加していただけることは大きなメリットである一方で、外出先(例えば屋外など)から参加する方も中にはいらっしゃいます。落ち着いた部屋でテストに参加して欲しい場合はその旨をあらかじめ伝えておくと良いでしょう。
また、スマートフォンアプリのユーザビリティを確認する場合、ユーザー自身の端末に開発中アプリをインストールしていただくことが難しい場合もあります。その場合は、事前にユーザー宅にアプリをインストール済みのスマートフォンを送付することを検討しても良いでしょう。
下記は、ユーザビリティテスト当日の流れについて説明します。なお、はじめてのユーザビリティテストに取り組む場合、ここから先の部分は事前に社内でリハーサルをすることを強くおすすめします。
当日、被験者の方が会場に来られたら、プロジェクトの概要を説明した上で、ビデオなどで撮影(オンラインで実施する場合は録画)することなど含め、調査への同意を確認しましょう。「このプロジェクトは、○○にプロダクトの操作性改善のために、いくつかの操作を行っていただきます。調査ために動画の記録を行いたいのですがよろしいでしょうか。」などといった感じです。また、ユーザビリティテストは製品の良し悪しを評価するものです。あなた(被験者様)の能力を測定するためのものではなく、うまく操作できなかったとしても、それは製品が悪いのだということを強調してしっかり伝えておくことも重要なポイントです。
また、収集した情報を今後製品改善のために社内で共有すること、ユーザビリティテストの内容などについて口にしないことなどに関しての同意をとっておく必要もあるでしょう。これは、未発表の製品や機能を扱う場合もあるためです。
プロジェクトの説明と、同意書への記入が終わったら、まずは参加者のことについて世間話のようなところからインタビューを行います。これには被験者の方にリラックスしていただくためのアイスブレイクとしての目的もあります。
普段どのような生活をしているか、どのようにスマホやパソコンを使用しているか、評価対象のプロダクトあるいはその競合との関わりについて聞くのも良いでしょう。あるいは新しいプロダクトに関する情報をどこから入手しているか、購入の意思決定をどのようにしているかなど、今後のマーケティング活動に活用できそうな質問を盛り込むのも良いかと思います。
場がある程度あたたまったらユーザビリティテストにフェーズを進めます。ここでは思考発話法について説明しますが、思考発話法を使用しない場合は読み飛ばしてください。
ユーザビリティテストに参加、あるいは実施したことが無い人にとっては思考発話法はご存知でない方が多いかと思います。思考発話法とは、思った事、考えたことを口に出してもらいながら操作する方法です。
例えば「まずはサイトにログインしないといけないんだけど、ログインのボタンはどこだろう。あ、これかな。メールアドレスとパスワードを入力するテキストボックスがあるけど、僕は以前Googleアカウントでログインしたような気がするんだよな。SNS認証を行うためのボタンはどこだろう。あ、あったあった。これを押してと。おっと、GoohgleのWebサイトに遷移したぞ。ここでGoogleにログインすればOKだな。」のような形で行います。調査参加者が若い方の場合は「Youtuberになったつもりで操作してください」とお願いしてもいいかもしれません。
もちろん、いきなり思ったことを口に出せと言われても恥ずかしいですし、なかなか難しいところもあります。そのため、まずは被験者にお手本を見せるのが良いでしょう。そして実際のタスクに入る前に、簡単なタスクで声に出す練習をしてみるのも良いかと思います。
次に、被験者の方に実施していただくタスクについて説明します。タスクはコンテクストとゴールで説明します。例えば、以下のような形で行います。
あなたは就職活動中の学生です。エントリーシートを提出したところ無事に通過して面接に呼ばれましたが、面接の場所まで距離があるため、前泊するためのホテルを確保する必要があります。面接日時は○月○日の午前10時から。面接場所はXXX県のXXXXXXです。予算は8000円以内で交通の便の良い場所のホテルを探し予約してください。
これらは口頭で説明しても良いですが、コンテクストや条件が複雑な場合は紙などで印刷して渡すとイメージがしやすくなるでしょう。
タスクについて説明し終わったら早速、タスクに取り組んでいただきます。タスクに取り組む様子は、ビデオなどで録画できると良いでしょう。PCやスマホで操作するアプリであればスクリーン録画アプリを併用するのも良いでしょう。持参していただいたスマホを使用してテストする場合は、書画カメラなどで上から手元を撮影させていただくのも良いでしょう。
ですが、予算や準備の都合などもあるので、斜め後ろからビデオカメラで撮影させてもらうのでも十分良いでしょう。また、被験者に思考発話法を実施して頂く場合は、音声が録音できていることも確認が必要です。また、多くの人がテストの様子を観察していると被験者にプレッシャーを与えてしまうので、被験者と同じ部屋に1人か2人を残して、別室でカメラ映像を通してテストの様子を観察するというのもよくある方法です。
タスクが終わったら、5分程度の休憩を挟みます。テスト実施者はこの休憩を利用して、ユーザの操作などで気になった点などを軽く確認しておくことを強くオススメします。休憩は単に休むだけの時間ではありません。タスク中とは異なる空気感でのこぼれ話から新たな発見につながる可能性があります。
被験者が操作している様子をビデオで見て頂きながら、気になった点について確認します。例えば、「ここでしばらく動きが止まっていますが何かを探していますか?とか何を考えていましたか?」などの質問が考えられます。前述した休憩時間は、このインタビューの準備でもありますので、気になった所があれば確認し忘れのないようにしっかり話し合っておきましょう。
ユーザビリティテストが終わったら一安心、と言いたいところですが、むしろここからが本番です。テストの場で感じたことや、被験者が操作した様子を撮影したビデオや、インタビュー結果などから、問題であると思われる点を抽出します。
この抽出の方法には、評価者が問題であると感じた点を挙げていく方法ももちろんあるでしょうが、初心者と熟練者の操作を比較するためにNEM ( Novice Expert ratio Method ) のような手法を使って課題を抽出する場合もあるでしょう。ユーザーの行動を細かく分析して時系列上にプロットしたいというケースもあるかもしれません。このあたりは目的に応じて手法を選択するのが良いでしょう。
また、それぞれの問題点がどの程度、重大なのかも合わせて検討しておくのが良いでしょう。具体的には、ちょっと戸惑うレベルなのか、タスクの実行を妨げるような支給改善すべきポイントなのかなどといった形です。
ログデータにアクセスできるのであれば、同様の行動がどの程度発生しているかを把握しておくのも良いでしょう。例えば、全ユーザーのうち、約半分がこの画面で同様の操作ミスをしている。あるいは100万人に1件程度の操作ミスである。と言った情報があれば、どの程度急いで改善するべきなのかを判断する材料になり得ます。
ある程度の課題が抽出できたら、改善案についても考えます。例えば、ボタンの色を何色に変えるべきであるとか、画面のレイアウトをこのように変更すべきだとか、具体的なところまで提案できると良いですね。
なお、実際には改善案を作成した段階で再度ユーザビリティテストを行うべきですが本記事では省略します。
ユーザビリティ評価は、プロダクトのユーザビリティを評価することそのものに目が行きがちですが、ユーザビリティ評価の目的は見栄えの良い報告書を作る事ではなくプロダクトを改善することです。
プロダクトを実際に改善するためには、社内の様々な方との協力が必要不可欠ですので、作成した改善案を元に、ステークホルダーとのコミュニケーションを行います。多くはプロダクトマネージャーやエンジニアに意見を求めたり、あるいは提案するといった形になると思いますが、改善案によっては、知財や法務、あるいは営業などその他の部門との相談が必要になるケースもあるはずです。
プロダクトを改善したらその効果を検証すべきです。ユーザインターフェースを変更した事により、ユーザの行動にどのような変化が起こったのかを確認します。大規模なプロダクトであればA/Bテストを実施することもあるでしょう。
ユーザインターフェースの改善はいわゆるWicked Problemを解くことにも似ています。つまり、何らかの問題を解決するために何らかの改善施策を行うと、新たな問題が噴出することが珍しくありません。
こんなユーザーがこんなタスクを行うときのコンバージョン率は確かにあがったけど、他のユーザーが操作する際のミスが増えたとか、あるいは操作に要する時間が伸びた、ということもよくあるシチュエーションです。これらはバランスを取る必要があります。
スマホアプリであっても、Webサイトやサービスであっても、現代のプロダクトはサービスの運営に伴い新しい機能が追加され続け、UIは変わり続けます。それに伴いユーザビリティを定期的に評価し改善していくことが大切です。
大掛かりなユーザビリティ評価を1度行うよりは、簡易的なものでも良いのでユーザビリティ評価を開発プロセスの中に組み込むなどして回数をこなし、常に改善点がないか目を光らせ続ける姿勢が重要でしょう。
本記事では、UXリサーチ/デザインリサーチの一環として多く実施されているユーザビリティ評価について、その流れをご紹介しました。リサーチに取り組まれる方の参考になりますと幸いです。また、弊社にてリサーチの実施をサポートさせていただくこともできますので、お悩みの際にはぜひお気軽にご相談ください。