弊社では、インターン生が関心を持つテーマを1つ選び、その機会領域を探索するために社内メンバーのフィードバックや協力を得ながらインタビューや分析、コンセプトを作成するまでのデザインリサーチを自主プロジェクトとして実施しております。
今回は「NPO団体と寄付者の双方にとってのより良い寄付方法」を対象に、2021年12月から2022年2月にかけてプロジェクトへ取り組みました。
このテーマ選びの背景にあるのは、インターン生自身のNPO団体への寄付に関する体験です。彼女は昨年、医療団体の必要性を熱く語る団体の方に出会ったことをきっかけに、月に1回定額が引き落とされるマンスリープランという形態で、生活への負担が無い額から寄付を始めました。
ところがそこから3か月ほど経った頃、彼女は口座の引き落としを見て自分が寄付していた事実を思い出し、ハッとしたと言います。申し込みからそれまで、自分が寄付をしている事実を忘れていたのです。確かに、それは思い出す必要のないことなのかもしれませんが、彼女は寄付を通して誰かのために貢献している実感を得たいと考えており、自分の期待と現状の体験にズレを感じたといいます。そんなとき、マンスリープランへの申込みでノベルティをプレゼントしている別の寄付団体に出会います。そのノベルティの日々の使用により、寄付をしているという自分が求めていた感覚が得られそうだと感じ、前団体の寄付契約を解消して、こちらの団体への寄付を開始しました。彼女は現在も満足しながら寄付を継続していると言います。
この一連の体験を通して、彼女はコミュニケーションの取り方によって寄付者の体験が変わるということ、そして、その体験への満足度が団体にとっての損失にも利益にもなるということを実感しました。そこで、寄付者・NPO団体の双方にとってwin-winな関係で寄付を成立させる方法を考えたいという思いから、今回このようなテーマ設定に至りしました。
以下では、このプロジェクトに取り組んだインターン生の視点から「プロジェクトの流れ」と「リサーチを経て気づいたこと」について紹介します。
まず、本プロジェクトでは次で示す流れに沿ってリサーチを実施しました。それぞれのステップでの具体的な取り組みについてご紹介します。
NPO団体への寄付にまつわる現状を知るために、NPO側・寄付者、両者の現状の体制や課題点などのリサーチを行いました。国内・海外のwebサイトを参照しながら、今後のインタビュースクリプト作成に向けて理解を深めていきました。そしてある程度、対象のトピックを取り巻く現状を理解し、疑問や深く知りたいことが生まれた段階で、インタビューの目的や、ターゲット、インタビュイーに伺う質問を具体的に書き出していきます。
ここから実際にインタビュースクリプトを作成していく段階に入ります。スクリプト上でどの質問をピックアップするかを悩んでいたところ、弊社代表の木浦から「あり得る質問は全て書いておかないととっさに出てこないので、役立つかどうかはさておき全て書き出しておこう」というアドバイスをいただきました。
そこで主なトピックを以下のように設定し、考えうる限りの質問を書き出しました。
また、質問だけでなく、当日インタビュイーの方にお伝えする内容や当日のアジェンダも細かく書き出しスクリプトを完成させました。
torima.inというサービスを利用してリクルーティングを行い、NPO・NGO団体に寄付を行なっている方々を募集しました。応募いただいた方のうち3名の方とそれぞれ60分間お話をさせていただくこととなりました。その際、インタビューは2人で実施し、基本的には私が質問を行い、もう一方の方がメモをとる形で進めていきました。
インタビュー終了後、その内容から以下の内容をまとめたインタビューカードを作成しました。
・プロフィール
・印象に残っているフレーズ
・印象に残っている3つのトピック
・寄付に関するその他のトピック
インタビュー内容を基に、NPO法人と寄付者の方のタッチポイント別に課題を書き出しました。「刊行物」、「申し込み方法」、「寄付者からのコンタクト方法」などインタビューから得られた意見・要望を改めて付箋に書き出しまとめ、その後、課題ごとにグルーピングしました。
そして、いくつかの課題をもとに、そこから考えられるインサイトを書き出しました。
その後、アイデアを出すための問いを作成しました。この問いは「How might we?」と呼ばれ、日本語にすると「我々はどうすれば◯◯できるか?」というカタチで、解くべき問題を定義する方法です。問いには対象者、目的、制約の3つの要素を含め、以下の10の観点を参考に作成していきました。
①良い面を伸ばす
②悪い面を除去する
③反対を探す
④そもそもの質問
⑤形容詞で考える
⑥他のリソースを活用する
⑦ニーズやコンテクストから連想する
⑧原因の立場になって考える
⑨現状を変更する
⑩問題を分割する
その中でより視点が新しく、今後のアイディエーションにおいてより多くの意見が生まれそうだと考えた以下の3つの問いを選出しました。
このHow might we?を基にアイデアを出し、コンセプトを作成していきます。
4.How might we?の作成で選出した3つのHow might we?に対して、複数名でアイディエーションを行いました。1つのHow might we?に対して「アイディエーション→共有」を2回繰り返し、お互いのアイデアから新たな着想を得ながら進めていきました。
アイディエーションで作成したアイデアの中から、課題に対してのアプローチとして新規性・有効性があるものを選び、価値仮説シート形式を用いてコンセプトを作成しました。
※価値仮説シート…顧客価値の仮説を整理するのに使っているテンプレートのこと。詳しくはこちらの記事で解説しています。
「寄付」という言葉が、自分のお金がちゃんと使われているのだろうかという不安を生むのではないかと考えた。そこで、「お金を無償で提供する」というそもそもの概念を覆し、プロジェクトの参加という体験を購入することを「寄付」として捉えてもらうというコンセプトです。
街で人が見ている中、寄付をしたり大きな声でお礼を言われることが、偽善者的で恥ずかしいと感じる方々がいるのではないかと考えた。そういった人々が、他人の目を気にせずにQRコードから寄付をすることができるようにするコンセプトです。
今回一連のデザインリサーチを実施する中で、リサーチ手法に関して気づいたことと学んだことを以下に述べます。
インタビュイーがどのような方であるのかは、実際にお会いするまではわかりません。コミュニケーションのスタイル、バックグラウンド、トピックに関する想いは様々で、それらを把握してインタビューの目的達成のために60分間対話するのは想像以上に難しいと感じました。インタビューに集中するために、事前の準備を綿密に行っておくことが大切だ例えば質問は考えられる限り書き出す・説明することは事前に用意するなど、インタビューその場で考えなければいけないことはできるだけ少なくしておくことが大切だと感じました。
今まで、自分はインタビューとなると1人で質問もメモも同時に行ってきましたが、今回は質問と書記担当を分け、2人体制でインタビューを行いました。単純なことですがこの方法がインタビューの質を非常に高めてくれたと感じています。今まで1人で全てやっていた時は、メモをとりながら聞き逃してしまったり、インタビュイーの方を少しお待たせしてしまったりするなど、書く・聞く・考えるのマルチタスクを処理することに必要以上に頭を使っていたと感じました。今回のインタビューでは私が質問を担当しましたが、書記担当の方が全てメモをしてくださっていたので、インタビュイーの方との対話に集中することができ、いつも以上に深掘りができたと感じています。
言葉や質問方法を少し変えるだけで、答えやすさが高まると学びました。例えば、出費に対する価値観を聞きたい場合、「何かを購入する時には躊躇しますか」と広く漠然とした質問だと答えにくいので、「最近大きな買い物しましたか?」「何を買いましたか?」など段階を追って深ぼっていくと答えやすい、といったことが挙げられます。自分の聞きたい内容がインタビュイーの方から出てこなかった際には、角度を変えた質問をしてみると良いと思います。
事前調査で既に知っていることでも「それって何ですか?」とあえて説明してもらいました。その方が対象をどう捉えているのかというメンタルモデルを把握することができるので、インタビュイーの方を知る1つの手段だということを学びました。
インサイトからすぐアイディエーションに移るのではなく、「どうしたら〇〇できるのか?」というHow might we?を挟むことによりアイディエーションの幅が大きく広がると感じました。様々な観点で制限を加えることでアイデアを導きやすくもなりますし、インサイト自体を言い換えることで見えていなかった方向からもアイデアを検討できます。
普段1人で制作をしている際に、同じようなアイデアしか出てこなくなってしまうことに悩まされていました。今回は4人でアイディエーションを行いましたが、それぞれが考えたアイデアを共有する度に、自分のアイデアと他の方とのアイデアが融合して自分1人では出せなかったアイデアが生まれたり、それぞれが新たな視点を得ることで全体的なアイディエーションを活性化させることができました。
以上、「NPO団体・寄付者双方にとってのメリットのあるコミュニケーションとは」に関するリサーチプロセスと一連の流れを通して得た学びについてご紹介しました。今回は寄付者に対するインタビューのみの実施だったので、NPO団体側の意見や抱えている課題感なども踏まえ、コミュニケーションの取り方を模索していく必要があると感じます。