プロダクト開発の中で用いられるMVPとはMinimum Viable Productの略で、日本語では【実用最小限の製品】と訳されます。
サービスの必要最小限の機能を備えた製品を、小規模のユーザーに使ってもらって反応を得ることを繰り返し、サービスを作り上げていくためのものです。ユーザーから学びを得るための過不足ないMVPを作り上げることがポイント。より詳しい説明は、こちらのMVPを端的に表す下記のイラストを解説したHenrik Kniberg氏の記事でご紹介しています。
あわせてご覧ください。
今回の記事では、あの有名な企業やサービスが行っていたMVPの事例をご紹介します!
日本ではUberEatsがサービス展開され日常的に利用されていますが、Uberはもともと自動車配車サービスでした。最初期に彼らがリリースしたものはクレジットカード決済機能を備えた、iPhone所有者とドライバーを繋ぐ簡易的なアプリで、創業者の知り合いのみに限定公開されていました。下記の写真はその頃のアプリのスクリーンショットです。当時はUberCabの名称を使用していました。
配車リクエストを行うと創業者に連絡が来るようになっており、創業者は連絡を受け取るとすぐにGoogle Mapで位置情報を確認し、現地まで行ってサービスを使用しようとした理由を聞いたそうです。この結果、できる限り素早くタクシーに乗ることにはニーズがあると判断し、本格的な開発に着手しました。
Uberが利用したMVP手法は「ワーキングプロトタイプ」と呼ばれるものです。ワーキングプロトタイプは、絵に描かれたモックなどではなく、顧客が実際に触ることのできるアプリやデバイスなどを開発し仮説を検証する手法です。簡易的であったり未実装の機能があったりするかも知れませんが実際に動くものを開発するためそれなりにコストがかかる手法でもあります。
DropboxのMVPは3分間の画面録画ビデオでした。これをソーシャルニュースサイトに投稿し、すぐに質の高い多数のフィードバックを得ることに成功しています。翌月にβ版のビデオを投稿したところ、ベータ版のサービス利用希望者は一晩で5000人から、75000人に増加しました。
CEOのDrew Houston氏はこの経験から学んだこととして、「必ずしもコードである必要はないので、ユーザーの手に何かを渡してできるだけ早くフィードバックを得るべきだ」と述べています。
Dropboxが利用したMVP手法は「ビデオプロトタイピング」や「スモークテスト」と呼ばれる手法です。ワーキングプロトタイプとは異なり、実際に顧客が触ることができないものの、商品を説明するビデオやWebサイトを提示することによって、顧客が自分達のプロダクトやサービスにどの程度の興味を示しているかを把握することが可能になります。
スモークテストとしてはサービス紹介ビデオによるものの他に、クラウドファウンディングを活用したプレオーダー型や、ランディングページ(LP)を作成して資料請求フォームを設置するなどの方法もあります。スモークテストは比較的コストをかけずにコンセプトの良し悪しを検証することが可能な方法であり、テストをサポートしてくれるサービスも多数ありますので、アイデアが浮かんだ段階でクイックに評価するための方法としても利用できるでしょう。
Sonyから発売しているMESHは、直感的にプログラミングを組み立てられるツールです。MESH開発担当者は、正式な発売前に米国のクラウドファンディングサイト「Indiegogo」での商品を掲載しニーズがあるかどうかを確かめました。「将来も含めて、市場に顧客がいるのかをきっちりと見極めたかった」と開発担当者の萩原氏は述べています。
クラウドファンディングを通してニーズを確認し、サイトに掲載から約半年後に一般販売を開始しました。
MESHの事例では、「スモークテスト」のプレオーダーがMVP手法として利用されています。事前に登録や購入者を募って顧客の反応を見ることができる手法で、現在もサービスビデオ紹介と合わせてクラウドファンディング内で頻繁に行われています。
現在Amazonに買収された靴を中心としたEC事業者であるZapposは設立当初、Webサイトは作成したものの在庫は持たず、顧客からの注文が入る度に創業者自ら店舗に出向いて購入をし、梱包から発送まで行っていたそうです。こうして需要調査をした後に本格的なシステム構築をしました。
Zapposの使用したMVP手法は「オズの魔法使い( The Wizard of Oz)」と呼ばれています。オズの魔法使いとはもちろん同名のアメリカの児童文学作品に由来しています。劇中で壮大な魔力を持つ魔法使いだとされた人物が、実は平凡な老人だったことから名付けられたとされています。
顧客(ドロシーたち)の目には、本物のシステム(魔法使い)が存在するかのように見せておきながら、裏側を覗くと実はそうではありません。一見すると詐欺のようですが顧客側からすれば裏側がシステムであろうが生身の人間であろうが適切な価値を享受できることが重要であり、サービス提供者側からすれば生身の人間が処理を実施することで開発工数を抑えながらシステムの価値検証を実施することが可能になります。
Amazon立ち上げ当初は、本のみを販売しているオンライン書店でした。販売している本は在庫として抱えることなく、顧客が本を購入した後その本を販売業者から購入して配送していたといいます。前述したZapposと同様の方法でサービスを検証しているとも言えるでしょう。
その後、規模が拡大するにつれて、倉庫を購入し、Webサイトに機能が追加されていったのです。現在ではあらゆるものが揃うAmazonですが、最初は一つのジャンルに絞り小規模にサービスを開始していました。
一定人数以上がクーポンを購入した場合のみ有効になるGroupon。
最初のアイデアから一ヶ月でWordpressのブログを作り、顧客に見せられるプロダクトにまで落とし込みました。毎日のお得な情報をブログ投稿として投稿、そしてクーポンを購入した顧客に対してのメール送信は何時間もかけて手作業で行っていたといいます。
プラットフォームの作成に大きなお金と時間を費やすことなく、ユーザーから声を聞くことに成功した事例です。GrouponのMVP手法も「オズの魔法使い」だと捉えることができるでしょう。
Airbnbの創業者たちはサイトに掲載されている部屋写真のクオリティーが良くないことに気がつき、第一印象を左右する写真をよくすることを考えました。そこで自ら「無料でプロのカメラマンがあなたの家の写真を撮影しますよ」と電話をし、5000ドル相当するカメラを借り、創業者自ら撮影に出向きました。
すると、写真の質を向上したエリアの売上を伸ばすことに成功し、自分達の仮説が正しいことを確認します。こうして並んでいる写真の質に力を入れる方向にプロダクトを進化させていくことになります。
Airbnbが使ったMVP手法は「コンシェルジュ」と呼ばれることもあります。オズの魔法使いとの違いは、オズの魔法使いは少なくとも顧客視点からはシステムが存在するように見えますが、コンシェルジュでは必ずしもそうではなく、生身の人間がサービスを提供します。コンシェルジュの最大の利点は、顧客との対話を通して顧客の理解が図りやすいところにもあるでしょう。
本記事では、いくつかの企業が実施したMVPについてご紹介しました。様々なMVP手法の中から自分たちのプロダクトの規模や予算にあった手法を取り入れる際の参考になれば幸いです。