「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」という言葉をご存知でしょうか。
ユニバーサルデザインとは、1985年にアメリカのロナルド・メイス氏によって提唱された「能力や年齢に関わらず、誰もが最初から使用することのできる機能的なデザイン」のことを指します。
このユニバーサルデザインの考え方に従って作成されたフォントを「ユニバーサルデザインフォント」(以下、UDフォント)と呼びます。2004年から2006年にかけて行われたイワタとPanasonic(当時は松下電器産業)の共同開発によって誕生しました。 市場に登場して以降、徐々に需要は増え、今では多くのフォントメーカーがUDフォントの提供を行なっています。近年では、インクルーシブ社会やダイバーシティ社会の考え方が広まっていることから、その重要性はさらに高まることが予想されます。
UDフォントが求められる事例の一つとして、ディスレクシアという症例が挙げられます。ディスレクシアとは学習障害の一種であるとされ、文字が歪む、霞む、鏡文字の様に見えるなど、文字の読み書きに様々な困難を伴う症例です。知的能力や理解能力に問題がないにも関わらず発生するため、周囲からは認知されづらく、日本では周知が進んでいません。そのため、支援体制も十分ではない現状となっています。
UDフォントはユニバーサルデザインの考え方に従い、文字の中の空間や濁点を大きくするなど、読みやすさに配慮して作成されているため、ディスレクシアを持った方にも読みやすい文章になることが期待されます。
また、学校や自治体がUDフォントを取り入れる動きもあります。
例えば、2019年2月には奈良県生駒市の教育委員会によって、小学生116人を対象としたUDフォントに関する実験が行われました。実験内容は、文章を読み、正誤を判断する問題をUDフォントと一般的な教科書体で36問ずつ解いてもらうという内容でした。結果は、教科書体で66%であった正解率が、UDフォントでは81%まで上がるというものでした。実験に参加した生徒からは「読みやすい」「わかりやすい」といった声がありました。
(参考記事: https://www.sankei.com/article/20190509-33FZZBYLXBNYVC4V6EDX3PYZ5E/)
また、2021年12月には「誰一人取り残さない情報発信」と「情報のユニバーサルデザイン化」の実現を目指して、茨城県行方市の公式ホームページにUDフォントが導入されました。
(参考記事: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000070989.html)
このようにUDフォントは、インクルーシブ社会やダイバーシティ社会を実現していくために重要な役割を果たすと考えられます。
アンカーデザインでも、コーポレートサイトにAdobe Creative Cloudの契約で利用できるAdobe Fontsより「FOT-UD角ゴ_スモール Pr6N」「FOT-UD 角ゴ_ラージ Pr6N」を使用させて頂いております。(Adobe Fontsについては後ほど詳しく紹介いたします。)
ただ、UDフォントの重要性が高まりつつある一方で、どのような種類のUDフォントがどのメーカーから提供されているか、また、その使用可能範囲がどうなっているのかといった、UDフォントの利用に関わる情報を包括的に得る手段が整い切っていない実態もあります。
そこで本記事では、各フォントメーカーやフォントサービスで提供されているUDフォントの種類やその使用可能範囲などについて紹介を行います。
https://www.morisawa.co.jp/fonts/udfont/
「文字のかたちがわかりやすいこと」「文章が読みやすいこと」「読み間違いにくいこと」をコンセプトに開発されたモリサワUD書体の提供を行なっています。慶應義塾大学との共同研究により視認性・可読性に関する評価が行われていることが特徴です。
販売プランは買い切りと定額サービスの2つに分かれます。買い切りでは「Select Pack 1/3/5/PLUS」(19,855円〜)、「TypeBank Select Pack 1/5/PLUS」(16,500円〜)でUDフォントの購入が可能です。また、Webサービス提供会社、印刷会社および、これら企業を支援するシステム構築会社など、サーバ・ネットワークを通じてフォントを利用したサービスを提供している企業を対象に「サーバーアプリケーション用フォントライセンス」の販売も行われています(購入時には問い合わせが必要)。
購入可能なUDフォントは以下の通りです。
産業用製品のOSやアプリケーションにフォントを直接組み込んで使用できるサービスです。見積もりや使用可能なUDフォントについては問い合わせが必要になります。
使用例は以下の通りです。
携帯電話/スマートフォン/車載機器/スマートフォンアプリ/医療機器/産業機器/操作パネル/ゲーム機/ゲームソフト/デジタルサイネージ/デジタル家電/表示装置など
https://www.iwatafont.co.jp/ud/
「視認性」「判読性」「デザイン性」「可読性」の4つの観点から開発された、イワタUDフォントの提供を行なっています。販売プランは買い切りと定額サービスの2つに分かれます。
買い切りではイワタストアにて、ダウンロード版(1書体17,280円)またはCD版(1書体19,400円)を購入することでUDフォントの使用が可能となります(ただし、イワタUDゴシックバリアブルのみダウンロード版92,400円、CD版が94,600円です)。
使用可能範囲は以下の通りです。
定額サービスでは「イワタLETS」「FONT PLUS」「REALTYPE」の3つでUDフォントの使用が可能です。ここではイワタLETSについて紹介したいと思います(「FONTPLUS」「REALTYPE」については後ほど紹介)。
年額定額のフォントサービスです。WindowsとMacで動作し、1ライセンスにつき年間49,500円の料金がかかります。使用可能なUDフォントは以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)と電通、イワタの3社により共同開発されたUDフォントです。開発プロセスに「ISO13407 人間中心設計のプロセス」が活用され、読み手の視点を考慮した設計となっていることが特徴です。
買い切りと定額サービスを通じて使用することができます。本項目では買い切りのフォントについて紹介します(定額サービスで使用可能なフォントについては「FONTPLUS」「REALTYPE」の項目で紹介)。買い切りは「ゴシック体・明朝体」「ゴシック 0213N」「グローバル」の3種類に分かれています。「ゴシック体・明朝体」はWindowsとMacでの使用が可能ですが、「ゴシック 0213N」「グローバル」はWindowsでのみ使用可能となっています。購入可能なUDフォントは以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
https://fontworks.co.jp/column/8146/
”ヨムモジ、ミルモジ、ツタエルモジ” を「モジコンセプト」に開発されたフォントワークスUDフォントを提供しています。九州大学との共同研究で「可読性」「視認性」「判別性」の評価が行われていることが特徴です。
定額サービスである「フォントワークスLETS」「mojimo-live」「mojimo-VR」「mojimo-manga」「mojimo-game」と支援専用フォントパックの「むすびも」でUDフォントの使用が可能です。
年額定額のフォントサービスです。WindowsとMacで動作し、1ライセンスにつき年間49,500円の料金がかかります。収録されているUDフォントは以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
「ちょうどいい文字を、ちょうどいい価格で」をコンセプトに特定の用途に合わせた書体をパックにし、提供しているフォントサービスです。「mojimo-live」「mojimo-VR」「mojimo-manga」「mojimo-game」でUDフォントの提供が行われています。
使用可能範囲は以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
子どもたちの自立と活躍の支援を目的とした、支援専用フォントパックです。申込をするとUDフォントを使用できるようになります(動作環境はWindowsとMac)。また、この時発生するパック料金は全て支援先へと寄付されます。パックのラインナップは支払い形態、収録書体の違いから6種類あります。
収録されているUDフォントは以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
https://www.motoyafont.jp/font-list/ud-font.html
従来のモトヤ書体に更なる「可読性」「視認性」「判読性」を加えた、モトヤUD対応フォントの提供を行なっています。
販売プランは買い切りと定額サービスの2つに分かれます。買い切りではモトヤフォントのオンラインショップにて、1書体(19,800 円)ごとの購入かフォントファミリーがセットになった5書体セット(79,200円)での購入が可能です。定額サービスでは「モトヤLETS」でUDフォントを使用することが可能です。収録されているUDフォントは買い切りで購入可能なUDフォントと共通しています。買い切り、定額サービスともにWindownsとMacで動作します。使用可能なUDフォントは以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
これらのUDフォントは医療・精密機器を対象にした組み込みフォントとしても提供されています。組み込みフォントとして使用したい場合は問い合わせが必要になります。
また、新聞社向け書体として「UD モトヤ新聞明朝 / 新聞ゴシック」の提供もされています。こちらも組み込みと同様に使用したい場合は問い合わせが必要になります。
ソフトバンク・テクノロジーが提供するWebフォントの定額サービスです。世界中のフォントメーカーからフォントが提供されており、収録されている数は3600書体以上です。「Fast UX」をコンセプトにフォントを選ぶ・試す・共有することに特化したWebアプリケーションとなっている点が特徴です。
料金プランは「トライアル」「スマートライセンス・プラン」「エンタープライズ・プラン」の3つに分かれています。トライアルでは入会前にスマートライセンス・プランに収録されている一部フォントを半年間使用することができます。スマートライセンス・プランでは月額1,100円〜利用でき、PV数に応じて料金が変動するプランです。
エンタープライズ・プランは大規模サイトやサービスなどの導入に使用できるプランです。利用するためには問い合わせが必要です。収録されているUDフォントは以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
リアルタイプが提供するWebフォントの定額サービスです。1サイトあたり、基本料金が月額500円から利用が可能で、従量料金か定額料金にて使用することができます。収録されているUDフォントは以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
https://www.adobe.com/jp/creativecloud/joc/adobe-fonts.html
Adobeが提供するフォントサービスです。Adobeや世界中のフォントメーカーが提供する20000以上のフォントを使用できることが特徴です。Creative Cloudのプランに含まれているため、Creative Cloudを利用している方なら誰でも使用することができます。収録されているUDフォントは以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
https://www.fontalliance.com/product/ff10d103/
フォントハブサイトのFANでは「FONT X FAN UDフォントパック ダウンロード版 30書体」(9,000円)が販売されています。ユニバーサルデザインの基本コンセプトに従い、ゴシック/丸ゴシックで構成されていることが特徴です。WindowsとMacに対応しており、両方持っている場合はそれぞれ1台ずつ使用することが可能です。収録されているUDフォントは以下の通りです。
使用可能範囲は以下の通りです。
また、ここまでで紹介したフォントプランについて、使用可能範囲のユースケース表を作成しましたのでご参考までにご活用ください。
本記事ではUDフォントについて紹介を行いました。
インクルーシブ、ダイバーシティの重要度が高まる今日では、ますます社会的需要が高まるものであると考えられます。
本記事が、皆様がUDフォントの使用をご検討される際の参考になれば幸いです。