海外のデザイン職種3選。今後求められるデザイナー像とは?

ANKR DESIGN
2021-12-07

デザインを取り巻く環境は、どんどん複雑になっています。一般的に「デザイン」という言葉は、ビジュアルに関するものを指すことが多いです。しかし1980年代からユニバーサルデザインや人間中心設計(HCD)という概念が浸透しはじめ、いまでは「ユーザー体験(UX)デザイン」が大きな価値を持つと認識されています。

デザインに対する需要は世界的にも高まってきており、特にヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの地域で高く、スキルをもったデザイナーの需要は供給を上回っています。2020年のLinkedInの調査によると、デザインは需要のあるスキルのトップ5に入るとされており、CNN Moneyも2015年から2025年までにデザイナーの需要が20%近く上昇すると予測しています。これらの情報からは、企業が競争力を維持するべく、デザイン分野に注力していることが読み取れます。

さらに近年ではハードウェア製品やWebサイトアプリのようなデジタルプロダクトのみならず、組織や業務もデザインの対象となっています。2018年には経産省が「デザイン経営」宣言を発表するなど、確実に私たちの「デザイン」概念は拡張してきていると言ってもいいでしょう。企業の意思決定に大きく携わるCxO職に、デザイナーが登用されることも珍しくありません。

この文脈で注目したいのがアメリカをはじめとした海外での動きです。デザインがビジネスにおけるメインストリームになって久しい海外では、デザイナーの役割が細分化されてきており、デザインに関連した新しい領域がいくつも立ち上がっています。今回の記事では、海外のデザイン領域の潮流はどうなっているのか、その新しい動向についていくつかご紹介していきたいと思います。

(1)コンテンツデザイナー

まずご紹介したいのが、コンテンツデザイナーです(企業によっては、UXライターとも、コンテンツストラテジストとも呼ばれます)。コンテンツデザイナーは近年注目を集めており、たとえばGoogle, Facebook, IBM, Spotify, JPMorgan, Sony Interactive Entertainmentといった企業は、コンテンツデザイナーを積極的に募集しています。日本ではまだ知名度が低く、「コンテンツデザイナー」「UXライター」の求人情報を調べても数件程度しか表示されませんが、Googleで”Content designer”や”UX Writer”の求人情報を調べてみると、ニューヨークやサンフランシスコ、ロンドンではそれぞれ100件以上の求人情報が確認できます。

コンテンツデザイナーの主な役割は、文章を通してプロダクトの目的の達成をサポートすることにあります。「コピーライターとどう異なるのか?」と疑問に思うかもしれませんが、コピーライターとコンテンツデザイナーの役割は明確に異なります。主にプロモーションを担当するのがコピーライターなのに対して、コンテンツデザイナーが目指すのはプロダクトの体験価値の向上です。言い換えるならば、コピーライターが注目を集めるためのライティングを行う一方で、コンテンツデザイナーは読んで違和感のないライティングを行うのが主となります。


コンテンツデザイナーは、製品ページやメニュー、エラー時に出るメッセージ、プッシュ通知など、プロダクトにおけるさまざまなコピーを作成します。そこでどういう言葉を用いるのか、どの文字を削りどの文字を残すのかを判断するには、深い人間理解だけでなく、自社のプロダクトとユーザーの両方を徹底的に理解しなければなりません。

コンテンツデザイナーの求人では、たとえば以下のようなことが求められます。

  • クライアントのブランド基準、スタイルガイドに準拠し、サイト全体の一貫性が保たれるようにする
  • ライティングスタイルのガイド、コンテンツ戦略、ベストプラクティス、およびプロセスの開発に貢献する
  • 自分のアイデアを関係者に提示し、フィードバックに対応する
  • 複雑な要件や問題を聞き取り、理解し、顧客中心の適切なソリューションを抽出する
  • UXリサーチと連携してコピーをテストし、改善していく

コンテンツデザイナーは比較的新しい分野でありながら、採用数は急激に増加しており、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちがこの職に就いています。日本ではまだコンテンツデザイナーの専門職はほとんどありませんが、デザイン領域の拡大に基づき、今後数を増やしていくことが予想されます。

(2)ラーニングエクスペリエンス(LX)デザイナー

UXが重視されるにしたがい、さまざまな領域で「UXを応用しよう」という動きが出てきています。なかでも注目されているのが学習分野です。学習にUXの考えを応用するラーニングエクスペリエンス(LX)デザインは、学習者が夢中になれるような価値ある体験を提供するべく努めるものです。LXデザインは企業によって、ラーニングデザインとも、インストラクショナルデザインとも呼ばれます。


LXデザインはUXデザインと多くの点で似ていますが、異なる点もあります。たとえば学習者とユーザーは、ニーズとゴールにおいて異なります。UXはプロダクトを使用する際の体験に比重が置かれますが、LXデザインは学習者が望ましい学習成果を得られることを強く意識します。その方法は、(ボード)ゲーム、音楽、アプリ、eラーニング、物理的な運動、劇場、バーチャル空間、パブリックスペースなどさまざまです。アメリカでの求人情報を見ても、大学などの教育事業の他、Amazon, Boston Consulting Group, Paypal, PwC, Tesla, TikTokのような企業で、LXデザイナーが求められていることがわかります。日本だとこのポジションを募集している企業はほとんどありませんが、ニューヨークでは100件以上、サンフランシスコやロンドンでも100件近くのポストが見つかります。

他のUXデザイン関連職と同様、LXデザイナーに求められることは企業によって異なりますが、ここではその一例をご紹介します。

  • プロダクトの試用、使用方法の紹介、実用的かつ魅力的な教材を設計・開発する
  • プロダクトの主要な機能や製品を深く理解し、ユーザーがビジネス目標を達成できるような学習体験を開発する
  • 定期的に学習教材を評価、調整、作成し、プロダクトの変更やリリースに合わせて学習ソリューションを最新の状態に保つ
  • アナリティクスやストラテジー部門と協力し、学習ソリューションの効果を評価するための指標を決定し、必要な改善を行う
  • トレンドやニーズを特定し、カスタマーサポートを改善するためのフィードバックを提供する

日本でもLXデザインは、いわゆるEdTechと呼ばれる領域で注目を集め始めていますが、アメリカやイギリスでの状況から読み取れるのは、あらゆるタイプの企業において、LXデザイナーの需要は高まっているということです。コンテンツデザイナー同様、日本でも今後さらに発展していくことが期待されます。

(3)デザインリサーチャー/UXリサーチャー

そして最後にご紹介したいのが、デザインリサーチャーやUXリサーチャー(これらをまとめて、以下デザインリサーチャーと記述)です。

デザインリサーチャーの役割は、ユーザーの行動、ニーズ、動機を明らかにして、価値ある製品やサービスを設計することにあります。目の前の問題や課題を理解し、その背景にあるユーザーの声に耳を傾け、観察し、適切な質問をすることで、実用的なアイデアにつながる知見を集めます。そして調査結果を統合し、チームの他のメンバーや主要なステークホルダーに、明確かつ実用的な方法を伝えるのです。

デザインリサーチャーには、認知科学、行動経済学、人類学、社会学、心理学など、人間の行動を研究する関連分野の知識や経験の他、ユーザーに共感する能力、データ分析の扱いに慣れていることが求められます。また、デザイン思考のプロセスをしっかりと理解し、デザイン戦略に影響を与えるための情熱とノウハウを持っていることも重要になってきます。

デザインリサーチャーを雇用している企業は数多く、Adobe、IBM、Microsoft、Disney、Warner、Apple、Amazonなどの有名企業から中小企業まで、デザインリサーチャーが活躍するフィールドは年々拡大しています。日本でも徐々にデザインリサーチャーを雇用している企業は増えてきていますが、アメリカやイギリスの大都市圏ではどこも100件以上の企業が募集しており、待遇も高く設定されています。

デザインリサーチャーの典型的なタスクと責任としては、次のようなものがあります。

  • 明確な目的を持ち、リサーチプランを作成する
  • 調査研究のために、対象となるエンドユーザーを募集しデータ収集に務める
  • データ分析を行い、ユーザーの行動に関する洞察を抽出する
  • デザインリサーチの結果を、明確かつ整理された形でチームに提示する

重要なのは、ユーザーのニーズやモチベーションに基づき、ユーザー像を構築することです。実際のユーザーからのフィードバックに基づいたインサイトを提供することで、よりユーザーフレンドリーなプロダクトづくりに貢献することが、デザインリサーチャーの職務だと言えます。

私たちアンカーデザイン株式会社は、とりわけこのデザインリサーチを強みとしています。この記事を読んで興味をもった方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください!


(文・石渡翔)

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