こんにちは!ANKR DESIGNです。
私たちは、最先端のテクノロジーを活用したプロトタイピングとデザインリサーチを強みとする、東京のサービスデザインスタジオです。
今回は、デザイン思考を「機能させる」ためのコツについてお伝えしていきます。
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いま「デザイン」という言葉は、じつに広い文脈で使われています。グラフィックデザインやインダストリアルデザインはもちろんのこと、たとえばいまだと「新しいプロダクトや事業をつくる」というのも、デザインのひとつだと言えるでしょう。
伝統的なデザインの場合、ある程度は方法論が確立されてはいます。一方で、新規事業のデザイン手法をどのように身につけるべきかというと、なかなかとらえどころがありません。
近年よく用いられるようになった「デザイン思考」という概念は、こうした背景から出てきたと考えられます。デザインにおいては、人の抱えている課題や願望を見つけるのがファーストステップです。たとえば家具のデザインだったら、対象となる人々の生活が便利になるのではないかと考え、新しい家具をデザインしますよね。新しい事業をつくる際もこれと同じように発想するのが、デザイン思考の基本的な態度です。
こうしたデザイン思考には、当然のことながら疑問の声もあります。たとえば「課題が見えてきたといっても、なかなか行動に結びつかない」という批判がそれに当たります。調査を通じてターゲットユーザーが見えてきて、いろいろアイデアは出てくるのだけども、どういうアクションを取るのか決断できないというわけです。結果として、「デザイン思考は単なるふせん遊びなのではないか?」と言われてしまうことも。
ゆえにデザイナーには、ストーリーを用いたり、実際にモックアップやプロトタイプをつくったりすることで、相手にアイデアをうまく伝えようとするのですが、ここで前提に立ち返らせてください。そもそも「人の抱えている課題や願望」を見つけることが、本当にできているのでしょうか?
ユーザーにインタビューし、そこからイノベーションの種があるかを探すというのは、相当な専門技術であり、少し勉強しただけで身につけるのは難しいものです。ですがしっかりとしたリサーチに根ざしていなければ、ディスカッションで合意形成することも難しくなりますし、ステークホルダーに決断を促すこともできないでしょう。「アクションを起こすためのデザイン」というと、ついモックアップやプロトタイプに注目が集まりますが、すべての土台となるリサーチを行うことも、それと同じぐらい重要な職能なのです。
「プロダクトマネジメントトライアングル」というものがあります。これはデザイナーとエンジニア、セールスの関係をうまく説明した概念で、それぞれのバランスを取る重要性について示唆を与えるものです。実際、セールスが強すぎると売るための要素が強く出たり、エンジニアが強すぎると技術本位の機能がついたり、デザイナーが強すぎると過剰なUXができたりしてしまいます。
デザイナーの立場からすると、ユーザビリティは高ければ高いほどいいと考えてしまいがちですが、プロダクトを生み出すうえでは、ビジネスのことやエンジニアリングの工数とのバランスも考えつつ、フェーズごとにうまく設計を考えなければなりません。
ただ、それぞれのバランスを取ろうとすると、今度は「何も決まらない」ということが往々にして起こります。「すべての部門のバランスを取ろう」とするあまり、うまく優先順位をつけることができなくなってしまうというわけです。
各部門のバランスを取りつつ、どうやって決断を促すべきか。それは「ユーザーの話をしっかり聞く」、すなわちリサーチを行うということに尽きるのではないでしょうか。
デザイナーの究極的な役割は、「ディシジョン・パートナー」になること、すなわち何かを決断する際に必要な材料を用意することです。そのためには、まず必要な素材をしっかりと集めてこなければなりません。そしてリサーチから得たインスピレーションを伝え、決断する人をプロジェクトに巻き込んでいくのです。
そのためにはデザインリサーチの重要性について、組織全体での理解が求められます。残念ながら日本の企業では往々にして、「リスクを取りたくない」という現場に遭遇します。何かをやって失敗したら減点されてしまうような環境で、ステークホルダーを巻き込み、行動を促すのは、並大抵のことではありません。リサーチをする側に関しても、インスピレーションを得るためにやったつもりで、ただの自説の「証拠集め」になっていることだってままあります。
結局のところ、デザイン思考は数時間のワークショップで身につけられるものではありません。たとえばユーザーインタビューをしたあと、どうやってそれをプロダクトに反映させるべきか。適切な決断をするためには、その発言の背景にある真意まで掘り下げる必要があり、それには訓練を要します。あたかも背負い投げを学ぶうえで、実際に何度も訓練するように。
そして、そうやって得られたインサイトに対して、チーム全体がリスペクトできる文化というのも、同じように時間をかけて醸成していく必要があります。
リサーチを進めていくうえでは、特定のインタビュアーだけが割り当てられがちなのですが、インタビューを通して得られるインサイトは、人によって千差万別です。インタビュアーが2人いれば、同じように解釈するとは限りません。
ここで意見が割れることは、歓迎するべきことです。そういう過程を経ることで、チーム内のリサーチ能力が向上しますし、リサーチを重視する文化も醸成されます。また、手続き的な意味でも、インタビューを効率的に進められるようにもなります。10人に話を聞かなければ得られなかったインサイトも、たとえば数人に同席してもらえば、それだけ多くの解釈が出てくるわけですから、少ないインタビュー数でも豊かなインサイトを得られるはずです。
正しいリサーチの方法、効率的なリサーチの方法を身につければ、よりよいプロダクトがつくれるようになります。これは間違いありません。
もちろん、それを実際にかたちにしなければ、「いい感じのコンセプトを提案して終わり」になってしまいます。ゆえにデザイナーには、プロトタイピングのスキルが絶対的に必要です。何かをつくるうえで、一発でいいものができることはめったにありません。リサーチをしたら、それに基づいてプロトタイプをつくり、またリサーチをして……というループを回していく必要があります。
それを一人の担当者が全部やる必要はないかもしれませんが、チームとして「リサーチ→プロトタイピング」を継続的に実施できる体制づくりが重要です。良いプロダクトは、このような環境から生まれるのですから。
ということで次回は、プロトタイピングについて取り上げたいと思います。お楽しみに!
(文・石渡翔)